先輩会計人に聞く 働き方の処方箋

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先輩会計人に聞く 働き方の処方箋

「知的・精神的な刺激と社会的意義を感じながら仕事がしたい」と元々好きだった文化・芸術の発展に寄与することを目指し、アーティスト・クリエイターやクリエイティブな事業を手掛ける企業を会計的な見地からサポートする公認会計士・山内真理さん。
山内さんが「会計」の専門性と文化・芸術領域を結びつけるまでにはどのような出会いや思いがあったのでしょうか。その過程には、会計人としてキャリアを築いていく上でのヒントが詰まっています。

 

1 きっかけはアート・カルチャーが社会に与える影響に興味を持ったこと。



学生時代から美術館やミニシアターに通うなどさまざまな表現作品から影響を受けてきたという山内さん。インスピレーションをもたらす鑑賞体験は、日々の糧になったといいます。

「アーティストやクリエイターが生み出す作品群は、ときに時代の空気を鋭く捉え、自分を取り巻く社会をより解像度高く考える上でのヒントをもたらしてくれる。一方で芸術の評価は多元的で、数値に収束していく世界の対極にある。学生時代、マーケティングやブランディングのゼミに所属したことも少なからず影響したと思います。クリエイティブなアイデアが産業を通じて社会に波及し、流通していく過程に興味を持つようになりました。文化のように、人間の知が相互に作用しながら生み出されていく無形の財産は、会計上は測定が難しいとされています。でも、そうしたものこそが社会を面白くしたり、人の精神的充足に作用する重要かつ根源的な要素だと考えました」

会計の専門性を生かすことで産業と文化の触媒になることができないだろうか?創造的な事業体を、会計を軸にした経営支援サービスを通じて下支えできないだろうか?と事業の構想を練り始めます。

「仕事のどこに充足感を感じるかは人それぞれだと思いますが、私の場合は、異なる思考に触れて日々自分自身を更新していきたいという欲求が強かったと思います。飽きっぽい性格でもあるので、日々変化があり知的興奮があるような仕事を探していました。元々公認会計士を目指したのは、会計感覚を磨くことで、おそらくは産業領域や組織などの制約を受けずに職業選択が行いやすくなるのでは?と考えてのことでした。公認会計士のような専門職はある意味、無色透明な存在とも言えるし、振る舞い次第では制度とプレーヤーを繋ぎながら社会の潤滑油になることもできる。そうイメージしたりもしました」

大学卒業後、山内さんは本格的に公認会計士試験の受験勉強を開始。個人会計事務所でアルバイトをしながら資格試験に臨み、2006年、公認会計士試験合格を手にします。

 

2 アートと会計



公認会計士試験合格後は、世界的に展開する大規模な会計事務所グループBig4のひとつ、有限責任監査法人トーマツに入所した山内さん。そこで、監査業務に従事します。

「私が所属していたトータルサービス部門は、監査のほか、IPO支援など中小企業の成長サポートを行う部署でした。いずれは独立したいという気持ちが強かったので、大企業よりはベンチャーや成長途上の事業体を見たいという気持ちもあって」

監査やIPO支援に携わる傍ら、自身の働き方の方向性を見出すため、独自の領域を追求している先輩会計人を見つけては、話を聞いたといいます。しかし、どれもしっくりこなかったそう。一方、山内さんはクリエイター、文化領域の経営者と交わっていくうち、彼らがクリエイティブな仕事とビジネスの両立に悩んでいることを目の当たりにします。欧米と違い日本ではアーティストやクリエイターが経営や会計・法律を学ぶ機会は少なく、現場にはこうした智慧が圧倒的に不足している。創造的な事業の現場では120%の熱量で動いていることが多いだろう。代替が効かない人材で独創性のある事業が展開されていたり、マネジメントが簡単ではない事業を展開していることも多い。不安定になりがちな経営環境だからこそ、現実の課題をタイムリーに識別化し、現場のクリエイティビティを犠牲にすることなく、事業全体をバランスよくデザインしていくことが求められる。会計を軸にした経営感覚が一層重要になるはずだ。山内さんはそう確信します。

そして出会ったのが、アーティストやクリエイターを法的に支援する非営利の法律の専門家組織「Art and Law(以下、AL)」でした。ALは、アーティストやクリエイターらから無料で相談を受けたり、その相談事例を元に知見を共有するなどの活動を行っており、法律や会計、税務などの専門分野の垣根を越えて、課題解決をするインフラを構築しようとしています。設立当初は知財や法律を学ぶ学生の集まりでしたが、後に彼らは司法試験に合格。やがて有資格者を中心とする実務家のネットワークになっていきます。会計面でサポートする人材がいなかったALに、山内さんの「文化・芸術分野の発展に寄与したい」という思いが重なり、彼女も組織に参画することになります。

これがきっかけとなり山内さんは2010年に独立を決断。翌年2011年に公認会計士山内真理事務所を開業します。それは折しも、東日本大震災直後のことでした。

 

3 ターニングポイント



2011年の東日本大震災後は、アートやカルチャーの業界も混乱状態でした。助成金がストップしたり、イベントが中止や延期になったり、先行して製作費を払っていた企業は、資金が回収できず、財務面でも危機的状況に陥っていました。

「東日本大震災直後は、資金調達や管理体制はじめ事業全体の立て直しが必要になるなど、独立して間もない私でも手伝えることが沢山ありました。社会全体の価値観が揺れていた時期でしたが、そんな中時代の潮流を指し示すかのような、新たなサービスが続々と立ち上がってきました。とにかく手伝えることをやっていきました。」独立後に草の根的にそうした活動に汗を流す中で、アートやカルチャー領域のクライアントも徐々に増えていくことになります。まさに、山内さんが目指していた方向で仕事がどんどん舞い込むようになったのです。

 

4 アーティストやクリエイターのペースメーカー兼アクセラレータとして



「どんな社会を創りたいかイメージし発信すること、そのイメージに基づいて実践し続けること、専門性を使い何ができるかをゼロベースで設計することが大切と考えています。会計や税務の専門職が、その社会的立場から当然期待されているのに、その期待に十分に応えられていないという面が世の中にかなり多く存在していると考えています。例えば、財務会計は事業活動の計測行為でもありますが、その計測は事業体の内外のコミュニケーションの起点になりますし、ビジョン実現に向けた道筋を描く経営デザインの起点にもなります。会計士はそれらを起点として事業に深く関わることで経営に付加価値を創出することが可能です。事業に深く関われば、おのずと事業や組織の企画・立ち上げ段階から相談される関係性となります。そうした関係性の延長に、従来の業界の枠組みに捉われない事業モデルの創造もあるでしょう。そして、そうした関係性があれば財務面や管理面における攻めの設計も可能です。会計事務所はクラウド化などの合理化が進み、そうしたことが従来よりも行いやすくなっています。また、税理士は本来、国家の基盤たる税制などの制度と納税者たるプレーヤーを繋ぎ、制度を翻訳し、プレーヤーの声を聞き・代弁し、制度のバグ取りが出来る立ち位置にいるはずです。特に感度が高いさまざまなプレーヤーの立場に寄り添うことで、制度の立体的な解釈が可能になるという側面がありますので、そうした立場を元に提言できることも出てくると思っています。

「会計が捉える事業の背景には、たとえば事業体やそのステークホルダーが共有するアイデンティティのようなものがあります。クライアントの先回りをして、財務的手だてを提案し、管理体制を整えたり、タックスの戦略を組み立てることは基本的な役割として重要ですが、単に数字を取りまとめ、読み解くだけではなく、コミュニケーションを通じて、事業体の提供する価値の本質やそれを推進している人の思想や根源的欲求を捉えようとすることも大切な姿勢です。現場のクリエイションの足枷となるものを極力排除していき、長期に渡り持続可能な状態をつくる。従来の業界の枠組みに捕われずに、事業体がミッションに適する事業モデルを模索していくというときにも、声がかかれば一緒にアイデアを練るようにしています。やはり究極的には会計事務所の顧客とは〝パートナーシップ“に近い関係性になっていくのだと思います。もちろん士業的な制約はありますが、従来の会計事務所の枠組みに捉われるつもりもありません。周囲の法律家や顧客であるデザイナー、建築家、アーティストなどとも必要があればプロジェクトベースで協働します。彼らの視点や思考法、行動様式が自身の学びや刺激になることも多いのです。そうした関係を育めることがこの仕事の醍醐味の一つでもあります。会計士という職業が、数字を通じてその奥にある真理を洞察し、人を助け、社会をよりよくする存在になれたら嬉しいと思っていますので、今頂いている環境やチャンスを大切にしながら、これからもよりよい仕事をしていきたいと思っています」
  
公認会計士山内真理事務所には現在7名のメンバーが在籍。「会計・税務の専門領域から文化や創造的活動を下支えし、多様な文化活動・経済活動の促進に貢献する」というミッションの元、チーム体制でお客様の日々の困りごとや経営に関わる相談に応えています。
  




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▼会計人のためのニュースサイト「KaikeiZine」にも山内先生の記事が掲載されています。
 詳細は以下より。

【会計事務所インタビュー】アーティスト・クリエイターやクリエイティブな事業を手掛ける企業の経営を
会計・税務を軸にサポート:公認会計士山内真理事務所 山内代表


 

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山内真理先生
公認会計士山内真理事務所 代表 山内真理(公認会計士・税理士)

一橋大学経済学部卒。有限責任監査法人トーマツにて法定監査やIPO支援等に従事。
2011年にアートやカルチャーを専門領域とする会計事務所を設立。
現在、主に法律的側面から文化・芸術支援の非営利活動を展開するArts and Lawの代表理事(共同代表)、
株式会社ギフティ監査役、特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会監事ほか。共著に「クリエイターの渡世術」など。

http://yamauchicpa.jp/